医療保険選びを難しくしている、「必要保障額の変化」とは でも少し触れた「先進医療特約」を医療保険に付加することのメリットとデメリットについて、さらに考えてみましょう。
「先進医療」とは、厚生労働大臣の承認を受け特定の医療機関だけが提供できる高度な医療技術のことです。
国に登録されている先進医療の数は、99種類(2012年5月現在)となっています。
これらは「先進」医療と呼ばれるだけのことはあり、たとえばがん治療における重粒子線治療においては、固形がんのがん病巣だけをピンポイントで狙い撃てるだけでなく、周辺組織へのダメージも最小限に抑えることができるとされます。
このように、登録された先進医療はいずれも現代の最先端をゆく医療技術として、通常の治療に比べて高い効果が期待できるとされます。
現時点で、患者にとって先進医療を受けられる病院は限られています。
治療機器そのものが非常に高額であり、設置できる余裕のある医療機関が少ないためです。
上記の重粒子線治療が可能な病院も、まだ国内では片手で数えられる程度です。
自分のいる県では利用したい先進医療技術に対応できる病院が一つもない、といった状況もあるでしょう。
利用者にとってのもう一つの難点は、先進医療の「技術治療費」は極めて高額であることです。
公的保険の適用外であり、先進医療にかかる費用は100%自己負担となります(ただし通常の治療と共通する診察・検査費用などは、保険適用の対象)。
技術治療費の平均額は内容に応じて1万~数百万円と幅がありますが、がん治療では300万円程度に達することも珍しくはないようです。
ただし、現時点で先進医療扱いとなっていても、何年後かに症例やデータが蓄積されてくれば公的保険の対象となる可能性も高いですし、逆に効果が認められず、将来的には登録を取り消される可能性のある先進医療もあると言われます。
上記の理由により、先進医療による治療は実際の適用事例がまだまだ限られていることから、保険会社にとって実際の支払事例も年間で数えられる程度に収まっているため、保険料を低額に設定しても採算がとれる現状となっています。
実際に先進医療特約の付加保険料は月額で数十円~100円程度と、現状では極めて安く設定されているため、加入者にとってもその点はメリットとなります。
このため最近は、この高額な技術治療費を保険で対応することをセールスポイントにした「先進医療特約」を付けた医療保険が目につくようになっています。
デメリットは、支払う特約保険料の安さの裏返しとなりますが、実際に先進医療の恩恵を受けられるケースが極めて少ない現実を見た場合、加入者にとっての費用対効果が低いことです。
年間で数百円程度の出費とは言え、現状では想定されるリスクに照らして支払う特約保険料が高くつくと言い換えても、あながち的外れではありません。
ただし先進医療費の総額自体は過去5年で倍増していますし、治療の実施件数もその認知度の高まりにつれ、年々増加の一途であることも、また確かです。
これらを踏まえて、10年単位で見てムダな出費と捉えるか、あるいは必要な安心料と捉えるかは、人によって考え方が分かれるところではないでしょうか。
ちなみに先進医療特約では、約款に書かれている保険金の支払対象となる「先進医療」の種類、そして保険金の「支払時期」が保険会社によって異なることを踏まえ、特約を付加する前にその内容をよく確認しておく必要があります。
(「特約」選びのポイント~「重要事項説明書」そして「約款」 も併せてお読み下さい。)
特に保険金については、必要書類を揃えて提出後に支払う「後払い」タイプの場合、たとえ一時的とは言え、高額な技術治療費を自分で立て替えなくてはならないからです。
もちろん現段階で先進医療に一切対応しないタイプの医療保険も少なくありませんので、いずれにせよ加入前のチェックは怠らないようにしましょう。