医療保険に限りませんが、ニーズに応じた商品設計の細分化が大きく進んだ結果、保険の素人である一般の利用者としては、いったいどれが自分に最適な保険なのか、わかりにくく困惑しがちな状況になっています。
よく言えば、選択の幅が拡がったことで、あふれる情報や人脈を活用して上手に探せるなら、いまの自分の状況にドンピシャの医療保険にたどりつくことも可能でしょう。
しかしひとつ間違えると、数え切れない保険商品の山に埋もれてしまってほとんど思考停止状態になり、ネットで誰かが「おすすめ保険」と宣伝していた商品についフラフラと、何本も加入してしまう...ともなりかねません。

それにしても医療保険は、なぜこれほどまでに多くの「商品設計の切り口」が用意されているのでしょう。
ここでは、加入期間で区別する「更新型」「終身型」、そして告知の有無で分けている「通常型」「限定告知型」「無選択型」のそれぞれについて、その背景や理由を考えてみます。
最近の医療保険においては、保険料の増加を伴いながら数年単位で定期的に契約を更新していく「更新型」よりは、最初の加入時から保険料が一生変わらない「終身型」が人気で、販売の主流となっています(「更新型」と「終身型」、違いを比較する際のポイント もご参照)。
「終身型」は、若く健康なうちに加入して、終身の保障を一定の保険料で固定してしまえばそのあとはあまり考えなくて楽...という点が、一番のメリットですね。
私たちはそう毎日毎日、医療保険のことだけを考えて生きているわけではありませんし(笑)、それよりは万一の手当をすませたあとで、毎日の仕事をがんばって貯蓄を増やすことに力を注ぐ...というのも、立派なひとつの判断でしょう。
保険料は将来のインフレ予測なども加味して決定されているため、保険期間が一定期間で終了してしまう「更新型」に比べ、「終身型」の保険料は高く設定されています。
これは保険料払込終了時までの保険料の総額がいつ支払っても金額的にほぼ同じであることが、背景にあります( 医療保険料の生涯払込額~いつ加入しても変わらない理由 )。
今でこそデフレ基調の続く日本経済ですが、たとえ現時点で想像しづらくとも、数年後に経済情勢が大きく急変する可能性はやはり存在するわけです。
もしも大型のインフレがやってきて、保障内容が実質的に軽くなったために保険を見直さざるを得なくなった場合、「終身型」の医療保険では解約して別の保険に入り直すしかありません。
「保険は基本的にインフレに弱い」という商品上の特性は、頭に入れておいたほうがよいでしょう。
「終身型」には「終身型」のメリットがありますが、その一方で「更新型」にも、ライフステージの変化に応じて付保内容の見直しがやりやすいという、立派なメリットがあるわけです。
また特に保険料に関わる見逃せない要素として、「加入条件」そして「告知」の問題があります。
一般に、加入時の告知範囲や契約条件がきちんと設定されている「通常型」の医療保険は、持病のある人でも告知不要で加入できる「無選択型」より保険料がぐっと安くなります。
裏返せば「無選択型」の加入者はそれだけ保険会社にとってもリスクが高いため、当然そうなるわけですが、利用者の目線から考えた場合、加入商品が「無選択型」か「通常型」かで、保険料の支払い総額は下手をすると何倍も開きます。
十年単位の期間ともなると、総額では百万円単位で違ってくる可能性すらあります。
したがって保険料のムダな支払を避けるという意味では、きちんと告知すべきことは告知したうえで、現在の自分の健康状態に適した医療保険に加入するほうが適した選択となることもあるのです。
また「無選択型」の医療保険は、加入後90日は免責期間として保障の対象外となるため、加入後すぐに病気になった場合は給付金を受け取ることができません。
持病(既往症)がある場合は、多くの場合「加入時から2年間は給付金を受け取れない(保障対象外)」などの制限が課されており、無選択型にすると給付を受け取るまでが非常に大変...といったデメリットもあります。
告知することで保険への加入を拒絶されるとガックリくる...という方も、きっと多いことでしょう。
しかし告知については、引受範囲・引受条件が保険会社によってもかなり異なっていることも多いですし、問題のある部分を「一部不担保」として保障からはずすといったやり方や、あるいは万一の際の保険金額を減らす特約をつけたうえで加入が認められるケースなどもあります。
たとえば「過去5年以内にがんと診断されたり手術を受けていなければ(保険金を支払う)」といったように、ある特定の病気でないことさえ告知すれば加入が認められる「限定告知型」の医療保険商品もあり、こちらも「無選択型」よりは、保険料が安く設定されています。
(限定告知型の医療保険については 新発売の医療保険、保障内容と実質的な保険料をチェック をご参照。)
加入時の告知をいやがるあまりに、何も考えずに「無選択型」を選んで何年も継続していると、少なくとも保険料においては、気づかないうちに必要以上の膨大な金額を支払うことになりかねないわけです。<
上記のとおり、医療保険にさまざまな商品がある背景には利用者ニーズの細分化があります。
保険会社が激烈な競争を背景に、細かな利用者ニーズの変化に光をあてつづけた商品開発を進めた結果、医療保険の商品ラインナップはこれほどまでに増える結果となりました。
それぞれの商品にそれなりの存在理由があるため、それは加入者の状況によってメリットになることもあれば、逆にデメリットに変わることもありえます。
ある人にとっての「おすすめ医療保険」は、他の誰かにとってはまったく不適切であったり、あるいはまったくその逆のケースとなることすら、なんら珍しくないのです。
保険の選び方ひとつをとってみても、経済の動向や自分の勤務する会社の先行き・自分と家族の人生設計・保険会社そしてさまざまな保険商品の情報収集など、チェックすべきことがいくつもあります。
医療保険、保険料のムダをはぶくための「必要保障額」を考える でも記したように、公的医療保険、そして必要と見込まれる貯蓄の手当をきちんとしたうえで、「そこからこぼれ落ちるものは何か」をじっくりと時間をかけて見極めることが、まずは大切なのではないでしょうか。